「G」 > vol.1
MUSICA
 阿部義晴ソロワークの2010年代を色付ける三部作『R』と『G』と『B 』。その2枚目にあたる『G』が8月7日にドロップされる。
 モノクロームの世界でバイクに股がって凛とした視線でこっちを向いているアーティスト写真を見ると、かなり硬派な一枚なのかなと思うかもしれないが、非常にノリのいい、まさに夏のドライヴにうってつけな一枚だ。
 しかし、それだけの音楽にならないのが、ザッツ阿部チャンズミュージック。そのノリやグルーヴの奥で、音楽の妖精がいろいろなイタズラを仕掛けたり、ハッとさせられるシーンがたくさん用意してあります。細かくは、この連載の中で徐々に明かして行きますよ。
 まずは『G』編の一回目。『R』の時に公約した通り、今回は阿部ちゃんと海のタイトルのテーマにもなっている海で撮影をし、その海からほどなく近い所にあるスタジオのソファーでゆったりとインタヴューをしてきました。そういう雰囲気の中だからこその、単なる作品インタヴューではない、かなりアーティストとしての本質を語る話になっていきました。
 まずは一回目、行ってみましょう。

■公約通り海に来ましたよ。あまちゃんの海ならぬ阿部ちゃんの海。

「はははは、遠路遥々、わざわざご苦労さんです」

■いやぁ、今日は夢のような日ですよ。前回の『R』編のインタヴューで「次は海で取材しましょう」という話にはなりましたけど、また制作が遅れて、海で取材とか呑気なこと言ってる場合じゃないんじゃないかと、一抹の不安を覚えてたわけなんですけど。海には来れるわ、梅雨入りしたのに晴れたわ。作品もこれ、遅れてないですよね?

「コレねぇ、遅れてないですわ(笑)。2個目の作品っていうのは、遅れないことが実は大事なんですよ」

■随分とドヤ顔で言いますね、こりゃ。

「(笑)言いますよ、今日は海だし。野球で言ったら、先発(1枚目)はもう出たんで中継ぎみたいなものですから、2枚目は。そこは割りと、コロコロッと転がってくれないといけないわけです」

■この世界の人は、中継ぎのことをよく「ナメてる」と言いますけど――。

「あ、そうなの?(笑)」

■はい、レッドソックスの上原が業を煮やしてそう言ってましたから。でもそこをしっかりやらないと、試合が締まらないんですね。

「そうそう、締まらないんですよ。ここでつまづいちゃいけないんです。なので実は、早めに仕上がるような展開のものを敢えて作ったんですよ」

■ん、そういうことってあるんですか!?

「あるんですよ。言ってみれば、音数が少ないと進行が早いんです(笑)。僕はひとりで全部やるんでね。1楽器につき、だいたい1日でやるんですよ。遅いでしょ~?」

■はい(きっぱりと)。

「で、『今日はドラムやるかな』なんて思ったらドラムを1日やって、じゃあ今日はベースやろうかなって思ったらベース1日、ギターも1日、ヴォーカルも1日、ピアノ15分――そんな感じなんです」

■ピアノだけはお手のもんだから早いのね。たとえば、縦笛吹でも1日かかっちゃうの?

「縦笛はちょっとラクなんで、『今日は縦笛とタンバリン』とかって、ちょっとサブ的な楽器の括りで併せたりしますね。なので、楽器の数が少ない曲をここに持ってきたんです。つまりどういうことかと言うと、割とグルーヴ重視というか。音の手触り・耳触りというよりも、リズムみたいなものを重視した曲がここに来てるんです。音を重ねるほど、グルーヴってどんどん薄くなってしまうんですよね」

■いやぁ阿部さん、びっくりですよ。私、これをまず一聴して、「これはノレる。ビート感が強い」と非常に感じたわけです。でもそれは、阿部さんの中の表現欲求がそういうものだったからだと思っていたら、まさか締め切りに合わせてこの作品のコンセプトが「ノレること」になってるなんて。予想だにしませんでしたよ。

「あぁ、そうでしたか(笑)。もう長いことやってるとね、そういうことも少し視野に入ってくるわけですよ」

■ミュージシャンIQというのは、こうやって使ったり鍛えたりするんですね。根本的なコンセプトの話になりますけど、今回は『G』ということで「Ground」=土台という意味ですよね。どういうプロセスを経ていったんですか?

「『R』とほぼ同じ状態で作業は進んでいきましたね。ただ、そこで選択された曲が、さっき言ったようにグルーヴ重視であるということくらいかな。あとは、サクサク進むといいなっていうのはありました」

■『R』の時は、非常にドラマチックで歌がとても前に聴こえてくるものが主体で。言ってみれば、この国の音楽としては非常にポップな作品になってると思ったんですね。だから次は実験的な感じの作品になってくるのかなと思ったんですけど、ここでノリのいい作品が出てきたっていうのは、締め切りだけの問題じゃないと思うんですよね。

「ふふふふ。そこはね、この3つでアルバムっていうことも視野に入れているわけですよ」

■この3つが「起承転」で、「結」がアルバムっていうくらい4作連続として考えてるっていうことですか?

「いや、『R』『G』『B』がまとまってアルバムというか。だからつまり、弁当早食いしたみたいな感じですね(笑)」

■好きな卵だけ抜いて食っちゃったみたいな(笑)。

「そうそうそう。だから割と、さっき言ったようなドラマチックな展開を見せていたり、あと、シングル系の曲だとかやらなきゃいけないような曲を『R』で先にやっておいたんです。で、アルバムトータルで見た時に、こういうグルーヴのある曲があると――たとえばライヴの中間にヴォーカルをチェンジしてみたりとか、ゲストを呼んでみたりとか、そういうものってどうしても必要になるでしょ?」

■はい、彩り感が欲しくなってね。

「うん、彩り感彩り感。あと、サクサク進む感ね。そうであれば、人の印象に残らなくてもいい、みたいな」

■酷いこと言ってますけど。

「とにかくね、進むことが大事だと思って、そうなってるんですけど(笑)。この次の『B』を今制作中なので、そこで全部の辻褄が合う予定になってるんですけど、何十年もロックミュージシャンとしてやってきてるわけじゃないですか。だから、僕は音楽をやる上ではグルーヴっていうものは欠かせないというか、常に意識してたんですよね。しかも長年やってるとグルーヴの種類もたくさん表現できるようになってるので、それぞれ違うグルーヴで4曲できるんじゃない?っていうような発想がありましたよね」

■1曲目の“ONE AND THREE FOUR”は、バイクの音から始まっていて。この作品の始まり感とロックンロール感で一気に駆け巡るような曲なんですけど。これはスタート感だけで作っていったような曲だったんですか?

「どっからどう言おうかなぁ(笑)。(プロセスが)あるようでないようなもんだからねぇ(笑)。ユニコーンに書いた“Feel So Moon”っていう曲に対して、誰かが『バイクに乗ってるようなワクワク感を思い出した』ってツイートしてたんですよ。それをたまたま僕はチラ見したんですけど、凄くいいなって引っ掛かってて。若い時にバイクとか何かに対してワクワクしたりしたことを久しぶりに思い出す、っていうことを曲でできたんだ!っていうね。それって割と嬉しいことのような気がしたんですよ。んで、バイク」

■はははは。阿部さんは別にバイク乗りじゃないんですか?

「別にバイク乗りじゃないんです(笑)」

■でも今回のアー写、阿部さんバイク乗ってますよね?

「はい、乗ってます(笑)。この曲名って実は、曲を作るモチーフとなった道が134号線なんで、そこから取ってるんです。その道、バイクが凄いんですよ。だから、バイクは割と見かける風景ではあるんですよね」

■でも間違っても、俺はバイカーじゃないと。

「えぇ、それは言いたいことですけど」

■この取材の前日もスケートボートとか買ってて、幼時退行のようにもお見受けできますけど。

「それはお互いにね(笑)」

■お互いにね(鹿野も齢49を前に、一ヶ月前にスケボーを買ってました)。もしかしてこれも、“SUN SET SUN”並みに例のハンバーガーショップの駐車場でてきた曲なんですか?

「これはスタジオから出ないで作りましたね。割とストレートなものを狙ってたんで、前回ほど色みたいなものを実は意識してないんです。だからちょっと(制作の仕方を)変えましたね。作り方を変えると、音楽自体も変わるんですよ」

■なんか当たり前の事を、凄くうんちくのあるようにお話してますが。

「ですね(笑)」

■で2曲目が、非常に情熱的なメッセージソングになってます。名曲ですね、これ。

「自分で言うのもなんですけど、これね、上手くできたと思ってるんですよ。でもね、評判がイマイチよくないです(笑)」

■そこら辺の所以を細かくお聞きしますよ。

「これ以前からなんですけど、僕が『これはいいな。やった!』と思った曲は、反応が薄いことが多いんですよ」

■阿部さんのキャリア全般において、そういうことが多いんですか?

「全般的にそうですねぇ。基本食い違ってる(笑)」

■音楽というのはスタッフの反応がすべてではなく、マーケットという名のリスナーの方からの反応がすべてなわけで。阿部さんの推し曲とセールスの関係っていうのは、ここまでどういう感じなんですか?

「えっーとね。結果的に、俺ってそんなに売れてるわけではないんで。あはははははは」

■そんなこと言う時だけ人の目をしっかり見ないでください。

「あ、そう?(笑)。でも本当に売れてるわけじゃないんで、そこら辺はちょっとわかんないですね」

■いや我々同世代同士で、ここから山越えて、また山立てるくらいの勢いで頑張ろうとして、この連載企画をやってるんですから。

「そうですね、まだまだ勝負しますよ、僕も。……たとえばリリース前は、『やった! コレは完璧だ!』ってある程度思ってた曲があるとします。『俺達としてはリスナーもちゃんと意識してるし、これが今、提示する最高の形かな』なんて思って出したものが実はそうでもなくて、そこから一歩引いたやつのほうが意外とよかったりすることが多いんですよね。だから、そこら辺のサジ加減がわかる人がいたら教えて欲しいくらいなんです」

■今おっしゃった話っていうのは、ビジネスやマーケティングに対するセンスと表現欲求とのバランスだと思うんです。ミュージシャンでもありプロデューサーでもある阿部さんにとって、このバランスは切っても切れないものですよね。

「そうなですよ。まず、僕が持ってる音楽というものがありますよね。それは大まかにふたつあるんですよ。自分のための音楽とーー僕も食べなきゃいけないんでーービジネスのために持ってる音楽とのふたつ。そのふたつでは、方法と気持ちがちょっと違うんです。でも僕という人間はアーティストなので、自分のバランス取るために両方の音楽が必要なんです。だから両方やるんですよね。……でも、ビジネスのほうに焦点を絞った音楽のことを考えると、そうじゃないほうが半分削られますよね。で、外に向く音楽の中でもさらに、速いもの、ミドル、スロウとパターンが分けられる。その中でもとっつきやすいものとかカラオケで歌いやすいものとか、いろいろな分類がある。つまりいろいろなカードを僕は持っていて、それを切る事ができるんですよ。で、そのカードっていうのが世の中の動きとちょっとずつズレてるのが、自分でわかるんです。何故ズレていくのかははっきりとはわかんないんですけど、たぶん僕が常に音楽のことを考えてるからだと思うんですよね」

■それ、凄いよくわかります。単純にして本質的な話ですね。

「世の中の人が音楽を考えてる時間と、僕が音楽のことを考えてる時間とは圧倒的に違うので、1曲を聴いた時に感じる情報量がまったく違うんですよね。僕が1曲を聴いた時に感じる情報量が10だとしたら、(世の中の人はその)半分もたぶんないかな。あと、聴くほうは(その音楽が自分にとっては)人ごとなんで、まるで最初の挨拶みたいなものなんですよね。つまり、パッと触わった感、パッと聴いた感で(リスナーにとってはその音楽の良し悪しが)左右されるんだよね?――っていうことなんですよね」

■そうなると、どうしても深みにあるものや本質的な部分よりも、演出的な部分が大事になったり、人の耳に届き易くなる。

「そう、そうなんです。今回の曲の中でも、これとかは、自分が音楽で表向きに向かっていった最高峰のものなんだけど、相手側はそのうちのちょっとしか取れない(=その曲のことを理解できない)わけですよ。それは音楽だけに限ったことじゃなくて、本とかもそうだと思うんですよね。あとはメールとかもそうで、10行書かれてもそのうちの2、3行しか覚えられてないと思いますよ。それと同じで汲み取り具合いが少ないんですよね。だから、10全部に重きを置いたものよりも、もっと適当にいい加減にザクザクッと入れたもののほうが、受け取る側は5を受け取れたりする事が割とよくあるんです。でもその逆で、自分が力を入れたものはたくさんいろいろな音や情報が入ってるんで、そのうちの2しか受け取られなかったりする。そこには多少のズレがあると思うんです。でもそのズレはあって当然なことで、音楽をビジネスとする時には覚悟しなきゃいけないことなんです」

■阿部さんって、ここでこうやって非常に批評的かつ冷静に自分のズレを解析できてるわけじゃないですか。

「それが合ってるとしたら、だけどね」

■合ってるかどうかというよりは、おっしゃることの意味は正論だしポップミュージックの本質論だし、凄くわかるんですね。で、そこまで自分に対して客観的になれてるなら、自分のそのズレの元にある、自分にとって音楽に対して諦められない執着と愛と濃いドクドクしたものを、この冷静さの元で外して音楽を作っていくっていうこともできるかもしれないですよね?――と、インタヴュアーとしては訊くこともできると思うんです。でも阿部さんがそれをやらないで、自分の創作と大衆性というものとのバランスを図りながら、苦悩しながら、それでも前へ進んでるのは何故なんでしょうね?

「何故なんでしょうね(笑)。そのズレを修正できて、それでできるんであれば、たぶんできると思うんです。……できればできるって日本語がおかしいけどね(笑)。でも僕は、その道を選んでないわけで。もし広告代理店みたいな場所にいたら、僕はそういう仕事もやると思うんですよね。しかも、ヒットさせる自信もあるんですよ。でも、阿部義晴っていうアーティストをそこに持っていっていいのかな?っていう気持ちがどうしてもあるんですよね(笑)。っていうのも、やっぱりそれは『自分』だから。……それって、自分のことが可愛いとかっていう意味ではなくて、自分のいいところも悪いところも結局は自分だから背負っていかなきゃいけないわけですよ。だから、他の皆さんのように、いいところだけをパッと汲み取ることは自分ではできないんですよね」

■それは、こいつ(自分のこと)に嘘つかせちゃダメなんだっていうような気持ちがどこかにあるからなんですか?

「嘘をつかせると、自分が壊れると思うんですよね。そうすると、それを管理してる自分もダメになっちゃうんですよ。で、元も子もなくなっちゃう。管理する側も自分なんで、いいところも悪いところも全部吐き出しておかなきゃいけないんですよね。たとえば僕がヒットメーカーみたいなものとしての生き甲斐を感じて、そこにいる立場にあったら、ターゲットは作品を作る人間の外にいますよね。その場合は、(いいところだけを)ばっさり根こそぎ取れるので、それは可能ですよね。だけど、彼(阿部義晴)にとっては、そこだけを取られるともの凄い過酷っていうか(笑)。だけどこの世の中、日の目を見れただけでも嬉しいって言う人もいるし、そんなのは下らないって言うやつもいる。僕は、仕事としてはその日の目を取ることはできるけど、本人のことを考えるとなかなかキツイものがありますよね。だからつまり、自分に対してはそれはできないんですよ。最初に言ったように、自分が持ってる音楽全部をやらないといけないんですよ」

■今の一連の話って全部、「俺をナメんじゃねぇぞ。音楽をナメんじゃねぇぞ」っていうエキスが阿部さんの歌の中にあることの一番の理由になってますよね。

「それはどういうことだろう?」

■聴き手に対して、「あなたへのサービスとしてやってますよ」っていうだけの音楽には絶対にしないっていうことです。

「あぁ、そうね」

■このスパイス知らないでしょ? 食ってみたらハマるかもしれないから食いなさいよ? って注文されてないものも入れるっていうことです。

「そうですね。そういう意味では、僕が食って美味しいと思ってるものを出してます。でもセールスを狙った場合は、そうじゃないと思うんですよね。自分が美味しくないものでもたぶん出すでしょ? だって、相手がそれを求めてるんだから」

■人が美味しいって言ってるんだもん、っていうことですよね。

「そうそう。それをやるのが仕事であって、それをやるために生きるって決めた場合はそうしなきゃいけない。」

■生きるための音楽、いや違う、食べるための音楽ですよね。

「はい。でも自分はそうじゃないところにいるんで。さっき言ったように、グルーヴにしても今回は4つ違うグルーヴを持ってきたので、それぞれに面白く感じられるところがあるんですよね」


 次回はいよいよリリース日である8月7日の直前のアップを予定していますよ。
 今度は、阿部義晴が今の阿部義晴の在るべき姿、そしてその苦悩を穏やかな日だまりの中で話したり、子連れ狼やブルースリー論まで飛び交う、宇宙の広いインタヴューになっています。
 是非、楽しみにしてください!

「G」
2013年8月7日 ON SALE
1.ONE AND THREE FOUR
2.舵を取れ 舵を切れ
3.GROUND
4.SO SO GOOD
¥2,100(incl. tax)

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"ONE AND THREE FOUR" PV