「G」 > vol.3
MUSICA
 もう暑くて暑くてたまらないですね、今年の夏は。
 こういう時は、クーラーつけ過ぎても風邪を引きますから、なるべく心の中を冷やすのが大事です。
 そうなるとやっぱり音楽の力を借りるのが一番ですよね? ほら、風鈴の音とか聴くと涼しくなるじゃないですか? でもずっとずっと不倫をーーいやいや、ずっと風鈴の音を聴いているわけにもいかないじゃないですか、すぐ飽きますから。
 そうなるとどんな音楽かってことですよ。で、今、みんなはこれを読みに来たわけですから。もうそれはそれでここで繋がっちゃったわけですから、阿部義晴を聴くしかないわけです。

 というわけで、神聖、いやいや、暑くて誤字が増えてしまいますが、新生阿部義晴のソロ、第一弾『R』、そしてこの夏に出たばかりの第二弾『G』
をよろしくお願いします。
 ちなみに阿部義晴、音楽的にはあまり涼しくありません。むしろ………逆です! あったり前ですよ、だって言いたい事と伝えたい事があるんですから。しかもそれが言葉にして説明できることじゃなくて、もっとぐんにゃりしたものだったりするからこそ、音楽にするわけですから。
 その意味で阿部義晴の音楽はカレーのようなものです。ホットでスパイシーで奥が深くてドラマティック。だから熱いですよ。暑い夏に熱い阿部義晴。でもみんな、暑い夏こそカレーを求めるじゃないですか。だからロイヤルホストも上手く行っているわけです。
 というわけで、この2枚のEPはすなわち、阿部義晴版のカレーフェアのようなものです。皆さん、よろしくお願いします。あ、そしてこの『G』編3回目のインタヴューも、どうぞお楽しみあれ!

■それでは『G』の最後を飾る4曲目“SO SO GOOD”。最後にサーフロックを持って来ましたね。

「これはもうね、適当なヤツですよ」

■またまた、可愛い子供こそ乱暴に扱うんだから。

「いやいや。グルーヴで彩るEPの最後を飾るものとして考えてて……ほら、ライヴの最後のほうでみんなでやるセッションみたいな曲ってあるでしょ。そういうの、楽しいじゃない?」

■ありますよね。ボブ・ディランのライヴに、エリック・クラプトンもジョージ・ハリスンもみんな来ちゃって、8小節ずつ歌ってるみたいなね。

「そうそうそう! みんなで“ジョニー・B.グッド”やるみたいな感じですよ(笑)。だから、時代的には50年代~60年代くらいで、ドラムはジャズ上がりだからシャッフルしてて、他の楽器はロック上がりなんで割りとベタッと弾いてるみたいなね。僕はロックンロール気味の世代なんで、ちょっと速めでシンプルな曲。そんなイメージです」

■なるほど。みんなでジャーン!な気分の曲を、実際はひとりっきりでジャンジャンジャンジャンやってるっていう。

「そうなのよね(笑)」

■この感じって、楽しいんですか? それとも案外、孤独の中で眉間に皺寄せて頑張っちゃってる感じなんですか?

「自分で鏡を見て作業してないからわかんないけど、楽しんでることは楽しんでるよ? 実は僕、レコーディングってライヴよりも好きなんで、音を重ねていくことは苦痛じゃないんですよ。この4曲目もね、今はマルチトラックでコンピュータの中で何チャンネルも使って重ねるわけですけど、昔は絶対そんなものあるわけないよなっていう前提で作りましたよ。当時って多分4チャンくらいしかないはずなんで、複数の音を一つのチャンネルにまとめるんですよね。たとえば、ドラムとベースは1チャンネルにまとめるとか」

■それぞれ録ったものをまとめて、一つのチャンネルに納めるんですね。

「そうそう。で、残りの3チャンを空けて、そこに録音してまたまとめてっていうことをやってたんです。『ドラムとベースは1チャンにまとまってるべきだ』とか考えながらね。そういう時に『タンバリンは、ドラムの時に入れ忘れたな』とか、下らないことを考えたりもするんですよ(笑)。だからギターとタンバリンは一緒(のチャンネル)にしようとか思ったりね。で、ギターとヴォーカルは録ったはずだから、ヴォーカルはセンターにいてもいいな、と。で、ちょっと変化が足りないしみんなで歌えるところがあるといいなっていうことで、コーラスを入れ始めたんですよ。コーラスを入れ始めたらもうチャンネルは埋まっていたんですけど、別のリールとリンクさせているはずだから、それはステレオでもいいなっていうことでコーラスをステレオにして。そんなことを考えながらやってると、割と楽しく時間は過ぎていくんですよね」

■なんか阿部さん21世紀のフィル・スペクター(ウォール・オブ。サウンドという、独自の音のダビングの仕方を開発した音の職人。ビートルズの『レットイットビー』を手掛けている)っていう感じですよね。

「ははは。あの人、ほんといっぱい重ねるからね。まぁ、ずいぶん長いことやってるので、僕の歴史は4チャンとは言わないまでも8トラックくらいから始まってるので、そこら辺はお手の物というか。テレコも今みたいによくないので、(50~60年代当時の録音は)絶対に歪んでるはずだっていうこと前提で、音色もそういうものとして作ってみたんですよ。敢えて悪い音にするっていうね」

■実際この曲は、カラッと作ってカラッと録ってカラッとでき上がったんですか?

「うん、早かったね。最初はソロ回しはギターでやってたんですけど、今回、ピアノが入ってなかったので――俺、一応ピアノの前に座ってることが多いんですよ」

■「一応」とか言わなくてもわかってますから。阿部さんの肩書きは「キーボーディスト」って書けば、それはそれで終わるポジションなんですから。

「そうね(笑)。なので一応、ピアノでやったという感じですよ」

■この『G』は、軽快に始まって軽快に終わっていく。でもその中では、人間と同じようにいろんなものがうごめいているんだよっていう4曲を表現した2作目とも言えるわけで。入り口と出口は非常に軽やかなんですけど、入ってみるといろんな世界が満ちている作品ですね。

「ねぇ、いろいろありますよねぇ」

■流石ですよね。

「ほんとですか? ありがとうございます。まぁ、それをサラッとね」

■2作目だから。

「そう、中継ぎ的に作っちゃいましたよ(笑)」

■ということは、1作目『R』はドラマチックで、2作目『G』はサラッとと言うなら、最後の『B』は相当なものになるっていう感じですよね。

「それはね、なかなか考え甲斐がありますよねぇ………えぇ…………はい(笑)」

■む? もしかして、まだまったく作り初めてもないとか?

「……………どうだったけかな……………」

■阿部さん、考えてるだけじゃ作品にならないですから、どんどん作っていかないとダメじゃないですか。

「はい、ダメですね(笑)。でもね、ふふふふ。とりあえず1曲は録ってますよ」

■とりあえず1曲(笑)。こりゃまた微妙な物言いですね。

「うん! 『R』『G』『B』っていうソロ企画をやることにして曲を書き溜めてる中で、この曲は最後の『B』でやろうって決めてた曲があるんですよ」

■今のお話を聞いてると、とりあえず録ったという1曲って、3枚目に向けた過程の中で生まれたわけじゃなくて、ある程度最初からあったものっていうことですよね。

「うん(笑)。最初からあって最初から録りたかったんですよ。だけど『B』のタイミングで録るんだ、と我慢に我慢を重ねた曲があって」

■温存しておいたんですね。っていうことは、その曲以外にあと3曲録らないといけないと思うんですけど、その3曲がスッと出てくるかと言うとそうも言えないようで。

「うん……でも、まだまだレパートリーはあるよ?」

■「今日も天気がよくて快適だねぇ~」って午前中から海見ながら、コーヒーフロート飲んでソフトクリーム食ってる場合(まさに取材前にそうやって遊んでました)じゃないんじゃないですか、阿部さん。

「いやいや、呼ばれたんじゃないですか(笑)。鹿野さんが海みたいとか、何か食べたいとか言うから、喜ばせようとしたんですよ、僕なりに」

■(笑)あ、それはそれはありがとうございます。

「いいのよ、大丈夫よ。あのね、俺は基本的にあんまり(締め切りが)延びたことないですから、あんまり。………今、2回『あんまり』って言いましたけど。ハハハハハ」

■こういう話になると、なんか信憑性がないんですよね。

「でも、やりたいことはあるんで。この先のアルバムのことを考えると、阿部義晴ソロとしては、『R』『G』『B』では要素が足りないと思うんですよね。もっと違う面もあるでしょ? だからそういうものも入れてもいいんじゃない?とは思うよね。ま、言ってるだけでまだ曲はまったく録ってないけどね(笑)」

■でも、曲は作ってはいると。

「えーーー…………あるような、ないような」

■それ、ないんじゃん。

「え? へへへへへへへ」

■音楽業界のあらゆるマネージャーの方から話を聞くと、「降りてきてる感じはするんだよね」とか「俺の中にはある」って言う人ほど、不確定なものはないと言いますよね。ソングライターの方の、「俺の中にはある」っていうひと言って、あれ、なんなんですかね?

「それはね、僕の言葉ではないからわからないです! ははははは!!」

■かなり近いところにあると思うけどな……。

「僕はね、海岸で貝殻は拾ってきてるんで、その貝殻は持ってるんですよ。だから、なんにもないわけじゃないんです。拾ってきたものはもうあるのね。ただ、それはまだ録ってないんですけどね、っていうことですよ」

■でも真面目な話、ご自分の中では今が一番楽しい時期ですよね?『R』『G』『B』っていうコンセプトもある、そして貝殻もある、さてこれを!っていう時期ですから。

「そうそう。そして、最初から録りたいと思っていたものは録ったと。僕は、『R』『G』『B』の中でたぶん一番いいと思ってるんですよ」

■最後の『B』がっていうこと?

「いや、『B』の中に入る、今いろいろお話をしたその1曲が。だってもう、録ってるわけですから! 一番力入ってますから!……でもそれはさきほどの話と同じで、自分が一番いいと思ってるものはウケが悪いんですよ(笑)」

■悲しいな、こりゃ(笑)。

「哀しいな、こりゃ。今回は、やったでしょ!っていうものに限って!」

■自分自身を信じられないっていうのは一番悲しい!

「ひゃあっ! そこがレースの世界とは違ってさ。『今の、タイム出たでしょ!』みたいなこと言っても、音楽はタイムじゃないからね」

■これがね、スポーツと音楽の世界は全然違いますよね。

「似てるようで決定的なところが全然違うんですよね」

■そうですよね、勝ち負けのベクトルがスポーツほどわかり易くないというね。でも面白いな。僕ね、ロッキン・オンさんを辞めてから1年間サッカー雑誌をやってたんですよ。あの時に本当に思ったんだけど、スポーツ人って人格的には素晴らしいんだけど、インタヴューしてると本当につまんない。

「どうしてなの?」

■理由ははっきりしてて。素晴らしいアスリートの皆さんは小学校からほとんど同じことしかやらないで生きてますよ。すなわち、ずっと反復の人生なんですよ。その反復をちゃんとできなかった人は、僕らにインタヴューされるような立場にはならないんですよ。だから、中高時代にサッカー推薦で進学して、でも暴走族のヘッドをやってた人間とかいろんな人間はいるけど、本当に悪いことをしちゃった人間は最終的にアスリートとしては大成していないんです。よって、自分の人生として面白い話ってほとんどないんですよ。もしくは、自分の人生ではないものを面白おかしく喋るとかっていう芸を持った人はいるんですけど、スポーツ選手って自分の間違いが芸の肥やしになってないんですよね。でも音楽の人って、人生の間違いが芸の肥やしになったりしちゃうじゃないですか。

「しちゃうんですよ~! 俺ね、それ酷いよ?」

■酷いって(笑)。俺は間違い続けてきた、と。

「あのね、半ばバカみたいなところがあるんで、『この先は行き止まりです』って言われても行く性格なんですよね」

■あははははは!

「『行ってみなきゃわからないじゃない!』って行ってみて、『行き止まりだな。よし!』と帰ってくるっていう」

■それを、敢えて学習能力活かさずに、永遠に繰り返すと。

「そうなんです(笑)。でもだからこそ唯一、『この先は行き止まりだぞ!』って、僕は自信を持ってみんなに言えるわけですよ。はははははは!」

■あはははははははははは!

「だって、行き止まりだって前もって知ってて行った人と、行ったら行き止まりだってわかった人じゃあ、説得力がエラい違うわけですよ」

■阿部さんは、人に「そこは行き止まりだよ」って言ってあげられるわけでしょ。で、言ってあげたからその人は助かるけど、阿部さんはまたそこに行くじゃん。

「行くね。気になることが行き止まりにあったりするんだよね(笑)。もしかしたら、あそここじ開ければ開くんじゃね?とか思うんですよね」

■開かないのにね(笑)。そんなに簡単に開きゃぁしないんだよ。

「開きゃぁしない、本当によぉ~。でも、開くんじゃないかなって思うんだよね~」

■スポーツの世界では、それがその人の失敗になっちゃうんだけど、音楽の世界では、それを妄想という名のイメージというものに還元して、実際、イメージっていうものが音楽というひとつの形、ひとつの芸術になるっていう。言ってみれば音楽って便利なものですよね。

「ね。俺、音楽家でよかったと思ってる。音楽家で助かりました!…………でもお見受けする限り、鹿野さんもそういうところが少なからずあるんじゃないですかねぇ」

■……僕は、もうちょっと頑張ってちゃんと生きてるつもりなんですけど。

「いやいやいやいや!」

■私はこうやって最高のミュージシャンの方とコミュニケーションを取れるっていう非常にラッキーな機会があって、すべて自分の勉強と学習能力にしてるつもりなんですけど。

「俺ね、今回鹿野さんと一緒にやることをお願いするにあたって、ただのインタヴューじゃないのがいいなっていう気持ちがどっかにあったんです。今日も、いろいろ俺も聞きたいなと思ってたのね。で、何を聞けばいいのかなって考えてた時に、僕、鹿野さんについて知ってることが少ないのね」

■はあ。

「そういう時に人はインターネットでウィキペディアとか観て調べるのかなって思いついたんですけど、僕はそういうことしないんですよ。っていうのは、鹿野さんがインタヴューを通じでいろんな人と会ってきたように、僕も音楽を通じていろんな人と会ってきたんですよ。その人達って、普通の人より割りと有名な人だから、前評判っていうものがあるでしょ」

■前提がありますよね。

「そう。こいつはワガママだとか、こいつは変人だとか、こいつはいいヤツだとかっていう、前情報のある人と会うことが多いんです。でも実際自分が会ってみると、その広まってる情報と実際のその人が全然違うんですよ。20代前半にそれに気がついた時に、人から言われた人の情報は聞くのをやめたんです」

■それは単なるノイズだと。

「うん。で、自分が見て自分に起こったことのみが、その人に対する情報であるっていう習慣があるんですね。だから鹿野さんの事も調べようとしたけど、『これで知っちゃったら、話して知ったんじゃなくて、インターネットで鹿野さんのことを僕は知ったんだな』っていうおかしな状況が生まれてしまうわけで。だから鹿野さんのことを僕はこうやってインタヴューから知るんですけど、結構危ないですよね」

■いやいや。

「いやいやじゃなくて、結構凄いところに話が行くじゃないですか。これはインタヴューじゃないでしょ、ってとこまで話が行くって凄いですよ。凄いというか、危ない(笑)」

■で、阿部さんは危ない事が好きなんだね、そういう意味では。

「好きですねえ!危ないこと大好き!! だから鹿野さんの事をいろいろ教えて下さい。そうすると、僕はもっと危ない事を知れる筈ですから」

■いやいや。

「いやいや。いやいやじゃなくて!」


 いやいやいやいや。どうでしたか? 真夏の阿部義晴は。この『G』編も次が最後になりますね。このインタヴューをしたのはまだ海の家が始まっていない初夏でしたが、今や夏真っ盛り、我らが阿部ちゃんは何をしているんでしょうかね? 3部作の最終作『B』を毎日作っているんでしょうかね? この『G』編最後の回では、その辺り、アンケートで訊いてみて、みんなにお届けしたいですねぇ、ねえ、阿部ちゃん!!!!!

「G」
2013年8月7日 ON SALE
1.ONE AND THREE FOUR
2.舵を取れ 舵を切れ
3.GROUND
4.SO SO GOOD
¥2,100(incl. tax)

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"ONE AND THREE FOUR" PV