「G」 > vol.1
MUSICA
我らが救世主、阿部義晴ひっさびさの、そしてピッカピカの新曲リリースでR。
近年の阿部ちゃんの活動は、ユニコーンでのものが多かったが、稀代のプロデューサーであり、
ゲテモノ喰いしながら、喰ったものを必ずポップに消化して(昇華して?)みんなにおすそわけする名人は、
牛歩の如く(失礼!)自らのソロ活動を進めていたのであった。
そんなゴーイング阿部ちゃんウェイの中、まず先頭切って出て来たのが、5月8日、このWEB連載開始日にリリースされたEP『R』。
ここで阿部ちゃんは、自らの音楽錬金術をフル稼働し、日常の景色を、ふとした時にひっかかった一言を、
そして心の奥にずっとしまっている「言いたいけど言えないから歌ってしまいたい」ことを、メロディと音と歌詞にしたためて響かせている。
日常の中で我慢しているものが、何かの機会に溢れ出し、哀しみや喜びの感情が叫びや涙に変わる事がある。
それを人は衝動とか慟哭とか歓喜とか言うのだが、
阿部ちゃんはその溢れちゃったものを一度、その激しさや息苦しいほどの思いすら全部包んであたため直してくれる。
そして自分で作ったお皿に乗せて僕らに「どう? 僕はこんな感じ?」と差し出す。
そんな阿部ちゃんクッキングの「心の景色、ポップソースがけ」と呼びたくなるのが、
この『R』の中の“RGBOP”“SUN SET SUN””Round & High””チャイム”の4曲。
3回にわけて皆さんにお届けする「阿部ちゃんと海『R』編」。まずは、所信表明からいってみましょうか。

■阿部さん、これ7年ぶりのソロですって。

「いやぁ、7年ぶりとは思えないですねぇ。でもまぁ、しばらくやってないなっていうことは感じてましたけど。まぁあいだにユニコーンがあったんでね、出してない感じは割とないんですよね」

■確かに。阿部さんにとっても、もの凄く派手な何年間かがありましたよね。

「まぁそうですね。そうねそうね」

■ユニコーンのファンだったら誰でもわかってるように、ユニコーンを復活させた立役者になったというか、インサイダーを阿部さんが全部やってたわけだから、そこに労力と時間がかかってたっていうこともありますよね。

「そうですね(笑)。そういう意味では、自然なソロ無き7年間と言うんですかねぇ」

■ご自分の中ではもうちょっと早くソロをやりたかったなとかっていう気持ちはあったんですか?

「いや。ソロとして一番最後にやったのは『四ツ葉の森(上)』で、そこで終わってるんですよ」

■でもこのアルバムタイトルの“(上)”って、上巻っていう意味でしょ?

「そうですそうです」

■普通このタイトルを見たら、村上春樹だって1ヶ月後には下巻を出す時代ですよ。

「出すよね(笑)。僕だってその次は下巻にいこうと思ってたんですけど……実は、その下巻を書くためにユニコーンをまた始めたんですよ」

あ、そうなんですか?

「えぇ。でもそれがまだ熟してないので、下巻には取り掛かれないというか」

■今の意味が半分くらいわからないんですけど。下巻を作ろうと思い、そのために作っていたソロ曲がユニコーンに流れたっていうことですか?

「いや、違いますね。(上)をやったことで、自分の中で自分の気持ちが完結したんです。で、やるべきことに気づいたんですよ。その結果どうするか?っていうことを下巻では書かなきゃいけない、と思っていたんです。タイトルが『四ツ葉の森』って言うもんで、上巻で四ツ葉を見つけたんです。で、下巻では、その四ツ葉が増えて行き、やがて森にしないといけないと思ったんですよ」

■あぁ、なるほど。

「で、森にするためには人が必要なんですよ。でもその人達がユニコーンかと言ったら、違うじゃないですか。だってこれは僕のソロとしての物語だから。そこでまぁ、いろいろ苦労してもいるんですよねぇ……。だから今回で、今まで内に向いていたものが、外に広がっていくのかなぁ?なんて。あははははは……」

■なるほど。阿部さんって器用そうなんだけど、案外不器用なところありますよね。
「そうなんですよ! 実はめちゃめちゃ不器用! 見抜かれてますね、しっかりと」

■いや。多くの人はタイトルを『四ツ葉の森(上)』とつけるとなると、下巻を作った上で上巻を出すものなんですよ。

「そっかそっかそっかそっか」

■それに今の話を聞いて思うんですけど、『四ツ葉の森』の下巻で何をやるのか決めなかったら、とりあえず“(上)”っていう文字は取っておこうってなる。つまり、どうなるのかわかんないのに“(上)”をつけるのは非常に不器用な人、もしくはマゾヒスティックな方がやるお仕事だなと思うんです。

「ははははは。そうですよ~、だからとことん不器用なんですよ。鹿野さん、知らなかったんすか!? いけませんよ!(笑)」

■以後気を付けます。この『R』という作品は、具体的にいつくらいから始めたものなんですか?

「それはね、今話した理由で『四ツ葉の森(下)』を今作るのはダメだということで、また新たなことをやろうと――」

■ちょっと待って、阿部さん。このシングル含めた動きは、『四ツ葉の森(下)』っていうアルバムに向かってるわけではないの?

「え、これは向かってないよ。『四ツ葉の森(下)』には全然まだ至ってないんですよ。まだダメ、そこまで僕は体感してないんです。だから、別のものを作ってしまったということですね」

■『四ツ葉の森(下)』に至ってないのは何故なの? だって今の話からすると、ユニコーンにはあれだけ人が集まったわけじゃないですか。ある意味、“音楽の森”はユニコーンというひとつの現象によって実現できたと思うんですよね。だから、これでサイは投げられた、じゃあ今度はソロでのその世界観を背負ってと思うのが普通な気がするんですけど。

「そっか。でも、まだ……もよおしてない(笑)」

■ま、音楽は排泄物ですよね、その通りです。

「当然、僕自身がユニコーンの再結成をある程度は消化しなきゃいけないっていう話もあるんですけど、最早自分がソロでも何でも次に向かうべきなのは音楽だけじゃないと思うんですよね。……ユニコーンの話をすると、音楽業界に対しては動きみたいなものをちゃんと見せられた自信はあるんだけど、経済とか世の中の動きとかにまで本当は広がってもいいのかなっていう想いは、ずっとあるから」

■ユニコーンの復活は音楽業界とか音楽ファンのあいだでは本当に大トピックになったと思うんですよね。でも阿部さんの中では、震災以降っていう時代に向けてという意味も含めて、この日本っていう国を大きく動かす風にまではまだ至ってない?

「うん。もう少し広いところに行けるんじゃないかっていう感じがあるんですよね。だからと言って、たとえば政治活動に関わるつもりもまったくないし、自ら進んでデモに参加するとかっていうことも考えてないですし。あくまでも音楽を武器にして、それが知らないあいだにいろいろなものに影響しているということが起きないかな、というふうに思ったりもするんですよね。……音楽の力って、意外とあるでしょ?」

■そうですね。

「だから、もうひと押しできないかなぁと思ってるんです。音楽というものの幅だけで完結させちゃいけない、そこだけが引っかかるから(『四ツ葉の森(下)』には)まだ取り掛かれないんです」

■その過程の中で今回のソロ活動再出発があったと思うんですけど。今日お話を訊くのは『R』という作品です。ここから、『G』『B』へ続く三部作になるということですが、なんかレイザーラモンみたいなんですけど。RGみたいな。

「はははははははは、そっかそっか」

■そんな冗談は置いておいて、ここにはどういう世界観があるのか、ご説明していただけますか?

「これ去年の10月からやってるから、どうやって始めたんだっけ!? みたいなところもありつつ昨日思い出していたんですけど(笑)。どういうことを僕はやるべきなんだろうか?っていうことを考えた時に、まずスタジオ引っ越したんですよ。ユニコーンを休みにした時に時間が空いたんで、仕事場をちょっと整えようかなと思って引越しをしたんです。スタジオというところは、ある種画家で言うところのアトリエみたいなもので、とても大事なところだと僕は思ってるんですね。そういう信念に影響されやすいので、(スタジオ作りに)非常に気を使うんですよ。だからもの凄い時間をかけて新しいスタジオを作って、ある程度までできたんです」

■まずは基地が作れたと。

「はい。そうすると音を出したくなるわけじゃないですか(笑)。で、今の世の中を見た時に……それはたとえば画家とかでもいいんですけど、何か作品があるとして、昔と比べるとリスナーともの凄く距離が近くなってるような気がするんですよね。よりスピーディーで、よりユーザーとの距離が近い。今後もっとそうなってくる気もするし、それはとても面白いことだと思うんですよ。そこで僕はアトリエを持っていて、音楽を作ることができ、それを作品にすることができるし、それを発信することもできる。そこにリスナーがいさえすれば、もの凄く速いサイクルで届けられるという状態にできるなって思ったんですよね。録ったら出す、みたいなことができるわけで。と同時に、若いミュージシャンのプロデュースをやっててよく思うのが、音楽業界の将来に対してやっぱりもの凄い不安がってるんですよね」

■音楽で食べていくということに対してですよね。

「そう。この先自分達はどうなるんだろう?と。そりゃそうですよ。僕が今20代だったら、たぶんミュージシャン目指してないと思うんで」

スタッフ「え?」

「(笑)だから、彼らをどうにかしたいという気持ちもあります。彼らが一番引っかかってるところって、レコード会社とか事務所とかの偉い人に嫌われたらどうしようっていうことじゃないですか。その関係がなくなってしまったら自分達の音楽生命すらなくなってしまうんじゃないかっていうことを思ってるんですよね。でも実は、音楽っていうのはそういうものじゃなくて、アーティスト本人達のものなので。自分達が『やる』と言ったらやるもので、自分達が『やめた!』って言ったらその時点でもうやめなわけでしょ。人から、『契約が切れたから権利上もうバンド名は使えない』とかってわけの分からないことを言われている光景をこれまで散々見てきたり、そういう人達と実際話をすると、それもちょっと悔しいでしょ。ミュージシャン側に立ってそう考えるとね、やっぱり若い子が思い切ったことを今のままじゃできないんじゃないかと思いますよね」

■人生というのは、飛べるか飛べないかが大きくて。音楽というのは、それを使って自分を表したり、理解共有されるものですよね。だけど、今は自分が音楽を作っても、メジャーだのシーンだののシステムの一部になることが多く、つまり飛べない、っていうことですよね。

「まさにそういうことなんですよ。だって下手なことできないでしょ。だから安牌になる。そうなると面白いものが減っていくというか、突飛なものが減っていくというか、どんどん縮小していくのみみたいなことになっていくんじゃないかっていう気持ちがどっかにあったんです。彼らは若いからもの凄い順応性があるので、さっき言ったような、自分が作れる場所があってそれを発信できるツールが整いつつあるこの現代では、僕よりも早く習得できるはずなんですよ。ただやっぱり、いかんせん揺れているので、そこで僕が先頭切ってひとつの道を引いたらどうなるだろう?とかっていうことを考えたんですよね。それが2つ目。で、3つ目の要因があるんですけど。実は僕、曲を作るペースが遅いんですよ」

■そうなんですか?

「もの凄く遅いんです(笑)」


阿部ちゃん流、三種の神器を開陳かと思えば、いきなり3つ目の武器は「遅漏」、いやいや「遅いことこそ、素晴らしい音楽に通じる道」だと言い出しましたよ。この逆転の発想の裏側にはどんな「アベノロジカル」があるのか? それは連載2回目を楽しみにしてください。
それでは続きは来週に続くのでR。

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